要点
録音は、いつも持っているスマートフォンで、静かな部屋で、話す人から30センチほど離した位置で行いましょう。素人の録音を台無しにするのは部屋の雑音であって、マイクの性能が原因になることはほとんどありません。質問は「その通りはどんな景色だったか」「仕事は日々どんな内容だったか」「二人はどうやって出会ったか」といった、答えが一言では済まないものにし、20分を過ぎたら切り上げます。そのうえで、コピーを3つ作り、2種類の異なる保存先に分け、1つは別の場所に置きます。ファイル名には必ず「誰が、いつ、どこで」を書き込み、音声だけでなく文字起こしも作っておきましょう。
最初に何かを買う必要はありません。今持っているスマートフォンを静かな部屋で丁寧に使うだけで、自分がいなくなった後まで残る録音ができます。マイクについて週末かけて調べるより、今日録ったほうがいい理由です。この作業で難しいのは技術的な部分ではありません。本当に答えが返ってくる質問をすること、相手が楽しめる長さで切り上げること、そして20年後も開けて見つけられる状態でファイルを管理すること、この3つです。
すでに亡くなった方の録音フォルダを抱えてこの記事に来た方は、先に進んで構いません。保存や名前の付け方についてのアドバイスは、これから録る音声にも、すでに手元にある音声にも同じように当てはまります。そして、そちらが後回しにされがちな部分です。
良い機材より、静かな部屋
素人の録音を台無しにするのは部屋であって、マイクではありません。静かな部屋で話す人から30センチほどの位置に置いたスマートフォンは、換気扇が回っているキッチンで高価な機材を雑に使うよりも、良い音で録れます。録音を始める前に、少しの間、話す人の声以外の音を聞き取るつもりで部屋の音に耳を澄ませてください。道路の音、離れた部屋のテレビ、換気扇、オンオフを繰り返す冷蔵庫。消せるものは消し、それ以外は扉を閉めて遮りましょう。
そのうえで、スマートフォンは動かない場所に、だいたい30センチの距離を保って置き、あとは触らないことです。手に持って身振りを交えながら話すのはやめましょう。誰かが指でトントンと叩いてしまうような椅子の肘掛けに置くのもよくありません。本格的に録り始める前に、最初の30秒を再生して確認してください。使えない録音だと気づくのは、最後よりも最初の1分であるほうがずっと助かります。
遠くに住んでいる場合
電話を録音するのは、椅子に座っている相手を録るよりも扱いが難しく、ルールも一律ではありません。合法かどうかは互いの居住地によって変わりますし、通信会社や端末によって使える機能も違います。まず録音を始める前に許可を取り、「録音してもいいか」という問いとその答えを録音自体に残しておきましょう。最も確実で手間のかからない方法は、静かな部屋で電話をスピーカーにし、別の端末で録音することです。相手の声は自分の声より薄く聞こえますが、それは実際に生じる損失であり、それでも録っておく価値はあります。
「はい」で終わらない質問をする
何度も聞き返される録音になるか、開かれないまま眠る録音になるかの違いは、ほとんど質問の仕方で決まります。閉じた質問には閉じた答えしか返ってきません。「そこに住んでいて楽しかった?」と聞けば「うん」で終わります。「玄関を出たとき、その通りはどんな景色だった?」と聞けば、描写が返ってきます。そしてその描写の中には、たいてい誰かの姿や、店や、匂いや、今はもうない仕事の様子が含まれています。
答えるのに映像や順序を思い出す必要がある質問を選びましょう。
- 育った通りはどんな景色でしたか?
- 普段の一日、仕事では実際に何を、どんな順番でしていましたか?
- お母さんとはどうやって出会ったのですか?最初に何があったのですか?
- 家には他に誰が住んでいて、それぞれどこで寝ていましたか?
- 何もすることがない日は、何をして過ごしていましたか?
質問をしたら、あとは口を挟まないことです。一番役に立つ言葉は「何も言わないこと」、そのあとに続ける「それで、どうなったの?」です。人が話をやめるのは、話すことがなくなったからではなく、聞いている側が話し始めてしまうからです。日付を訂正しようとするのもやめましょう。「1963年」と言われて、本当は1964年だと確信していても、そのまま流してください。録っているのはその人自身の記憶であって、あとから注釈をつければいいのです。
20分で切り上げる
20分というのは現実的な長さです。長時間になるとみんな疲れてしまい、後半はほぼ必ず前半より内容が薄くなります。答えが短くなり、声の抑揚もなくなり、話している人は聞かれているというより、調べられているような気分になってきます。まだ調子がいいうちに終えれば、次の機会につながりますし、次回はやり方をお互い分かっているぶん、話がすぐに軌道に乗ります。
1回長い時間をかけるより、3回の訪問でそれぞれ短く録るほうが、使える内容は多くなりますし、次回に深掘りすることもできます。聞き返してみると、「あれを聞いておけばよかった」ということが必ず見つかるものです。それを次回の質問リストの一番上に書いておきましょう。
何よりも先に、ファイル名を付ける
この記事に書かれているどの技術的な判断よりも、名前の付け方のほうが重要です。voice memo 14という名前のファイルが並んだフォルダは、二度と開かれることのないフォルダになります。誰が話しているのか、いつ、どこで録ったのかは、別のメモではなく、ファイル名そのものに書き込んでください。別のメモは音声と離れ離れになってしまいます。20年後にそのフォルダを開く人は、その声を聞いても誰なのか分からず、どちらの祖母の声なのかも判断できません。
フォーマットについて言うと、非圧縮のWAVはすべての情報を保持しますが、ファイルサイズが大きくなります。話し声であれば、高ビットレートのM4AやMP3でも保存用として十分で、しかも保管やバックアップ、いとこへのメール送信がずっと楽になります。スマートフォンで選択できて容量に余裕があるなら、WAVを選んでも問題はありません。選択肢がない場合は気にする必要はありません。実際に録れた録音は、録れなかったフォーマットにはるかに勝ります。
コピーを3つ、保存先を2種類、そのうち1つは別の場所に
1つのコピーしかないなら、それは保存とは呼べません。アーキビストが使う基本原則は、コピーを3つ作り、2種類の異なる保存先に分け、そのうち1つは別の場所に置くというものです。大げさに聞こえるかもしれませんが、今おそらく手元にある状態を数えてみてください。階段や水、盗難のリスクがある場所で、ポケットに入ったスマートフォンの中に1つだけ、というのが実情ではないでしょうか。
家族向けに現実的なやり方を挙げると、パソコンにファイルを置き、別の住所に保管するか兄弟姉妹に渡す外付けドライブにもう1つ、そしてクラウドストレージにも1つという形です。クラウドストレージは3つのうちの1つとして数えるものであり、それ自体をバックアップとみなしてはいけません。アカウントは閉鎖されることがありますし、利用規約も変わります。共有のクラウドフォルダは、アカウントの持ち主が亡くなると消えてしまうことがよくあり、まさにこの一連の作業が想定している事態そのものです。親族には、その人自身が管理するドライブに、その人専用のコピーを渡しておきましょう。
元の録音には手を加えないでください。編集したり、切り詰めたり、クリーンアップしたりする作業は、別のファイル名を付けた複製の上で行いましょう。元の録音だけは、二度と作り直せないものです。
文字起こしは音声とは別の役割を果たす
音声と文字起こし、両方とも必要です。理由が違うからです。音声はその人の声そのもの、つまりアクセントや、間の取り方や、笑い声であり、孫が「どんな声だったか」を聞くために再生するものです。文字起こしがそれに代わることはできませんし、代わろうとする必要もありません。文字起こしが担うのは、録音を使いやすくすることです。名前や地名で検索できる、手紙や弔辞に引用できる、そして2時間の音声を聞く時間はないけれど4ページの文章なら読んでくれる親族にも読んでもらえる、そういう役割です。
自分で入力する方法は時間がかかりますが、その分すべての言葉を聞き取ることになります。もう一つの方法は、ソフトウェアにかけて結果を修正することです。ソフトウェアを使うなら、SozAIはiOS、Android、macOS向けの文字起こしアプリで、99以上の言語で話者ラベルと要約付きのテキストを作成できます。二人が同時に話しているような場面でも役立ちます。ツールを選ぶ前に一般的な手順を知りたい場合は、音声をテキストに変換する方法の解説も参考になります。
すべてを文字起こしするのは、たいてい間違った選択です。内容を失ったら後悔するような録音だけを文字にし、残りは分かりやすいファイル名をつけた音声のまま保管し、必要になったときに見返せばいいのです。
うまくいかないことも想定しておく
高齢の方の声、強い方言やアクセント、入れ歯、補聴器、そして二人が互いの言葉を引き継ぎながら話す会話は、いずれも自動での文字起こしには難しい相手です。どの音声テキスト変換ツールを使っても、出てくるのは完成品ではなく下書きだと考えてください。村の名前や、亡くなった親族の名前のところで最もよく間違いが起き、しかもそこはまさに大切にしたい言葉です。テキストとして残したい素材には、修正のために1時間程度は確保しておきましょう。
音声のクリーンアップにも限界があります。ノイズ除去によって、サーッというノイズの中から声を引き出すことはできますが、やりすぎると壁の向こうから話しているような声になってしまいます。ハム音やヒスノイズは軽減できますが、同じ部屋で流れているテレビの音を後から取り除くことはできません。これは、事後になって分かる「静かな部屋で録るべきだった」という理由そのものです。
会話そのものにも、良い日と悪い日があると考えておきましょう。ある回は20分間まるごと貴重な内容になり、別の回は既に知っていることの簡単なまとめで終わることもあります。それは普通のことであり、やめる理由にはなりません。何気ない火曜日に、照明も悪く、犬の鳴き声が入り込んでいるような録音こそが、結局何度も再生されることになるのです。

